第38回大会 全国高等学校IT・簿記選手権大会
先生方が語る我が校のIT・簿記教育

第38回大会 引率教師懇談会の様子

引率教師懇談会が選手たちの競技時間を利用して開催されます。毎年、IT教育・簿記教育に熱心に取り組んでいる先生方から、実体験にもとづいた貴重な講演があり、この講演を楽しみにしている先生がたくさんいます。講演を聞いてこの大会の意義を再確認したり、指導方法を参考にしたり、他にはない有意義な時間になっています。また、講演の合間には先生同士が再会を喜んだり、談笑したりとこの懇談会が先生方の貴重な情報交換と交流の場になっています。

講演をして頂いた先生方

「部活動全員加入制」「南商生徒憲章」による生活、「高い資格取得率」「卒業生の活躍」

北海道帯広南商業高等学校  

堀内 大輔先生

私の母校でもあります帯広南商業高校についてのお話しさせていただきます。

本校は、昭和34年に開校し、今年で60年を迎える帯広市立の商業科5クラス、全校生徒600名の学校です。卒業生の進路は就職6割、進学4割で入学する生徒の学力は比較的高い状況です。また、何事にも積極的に取り組む生徒が多く、地元紙である十勝毎日新聞では、「南商」の文字をほぼ毎日見る程の活動を行っています。そのため、地域社会からの信頼も厚く、「南商ブランド」という言葉が地元では使われています。

本校の特徴としては、「部活動全員加入制」「南商生徒憲章」による生活、「高い資格取得率」「卒業生の活躍」の4点があげられます。

1点目の「部活動」については、開校以来、部活動全員加入を続けており、人間力の形成に努めています。クラスの仲間以外にも、同じ興味を持った仲間との関わりで部活動が学校のなかでの居場所になっていることもありますし、先生方も「部活動顧問は第2の担任」という意識を持ち、多くの目で生徒にかかわることができることから、生徒の小さな変化にも気づくことができます。現時点で6つの部活動が全国大会に出場する機会を得ています。

2点目の「生徒憲章」ですが、本校に校則はありません。平成7年までは校則がありましたが、学校がルールを決めなくても、常識の範疇で生徒自らが判断して欲しい。南商の生徒ならできるだろうと校則をすべてなくし、生活の指針となる生徒憲章を制定しました。その結果、一時期は校則がないから自由だと自分で勝手に判断し、行動した生徒もいたようですが、地域から求められている南商像や自分の進路活動に直結することを理解し、大半の生徒が穏やかに学校生活を送っています。

3点目の「資格取得」については、十勝・帯広では、どの検定を持っているかよりも、全商検定1級の取得の数を本人の努力の結果と認めていただける企業が多いことから、積極的に資格取得に取り組んでいます。帯広市の数値目標として1級3種目合格を学年75%と呈示されています。昨年度も全種目合格者を含め151名が3種目以上に合格し、5年連続で目標を達成しています。また、私がある会議に参加した際に、当時の指導主事の話の中で、「もう、検定一辺倒をする時代は終わりました。しかし、北海道で唯一、十勝地方だけは企業が資格取得を求めています。その地域の状況を常に感じながら、社会で求められる人材を育ててください」と話されました。私も南商で、2回卒業生を出し、生徒の進路活動にかかわりましたが、実感として資格取得の大切さを感じています。

4点目の本校の卒業生ですが、タイムリーなのは平昌オリンピックにおいて姉妹で5つのメダルを獲得した髙木菜那さん、美帆さん姉妹です。本校初のメダリストが誕生し、学校全体が祝福ムードに包まれました。
また、4月には2人で学校を訪問してくださり、生徒600人とハイタッチをするなどとても印象に残る報告会となりました。また、本校の多目的ホールには、髙木姉妹のコーナーを作り、来校者の皆さんに見ていただいております。
2年後の東京オリンピックには、陸上で福島千里さんが活躍してくれることを願っています。

次に本校の情報処理教育についてですが、2年間で情報処理6単位のみとなっています。
この授業の中で、60%~70%の生徒が情報処理検定のビジネス情報部門1級に合格します。
しかし、それ以上の学習をしようとする生徒はほとんどいません。また、3年生の1年間は情報に関する授業が全くないため、コンピュータの操作方法やエクセル関数の使い方などを忘れる生徒も少なくなく、就職してから学校に聞きに来る生徒もいるのが現状です。情報処理を中心に教えている私としてはもう少しなんとかしたいと考えることはあるのですが、スペシャリストよりも幅広く様々な知識を有していることを求められる地域性を考えると、今の形がふさわしいのかと思っています。

最後にOAビジネス部ですが、入部の動機は、たくさんの資格を取ることができるという生徒がほとんどです。数年前までは大会に参加はするものの、生徒のモチベーションが低く、さらに北海道で情報処理科を設置する学校との知識量の差は大きく、歯が立たない状態が続きました。
しかし、個人ながらIT簿記選手権の全国大会に参加させていただいたことが、生徒のモチベーション向上につながりました。今年度につきましては、3年生が多く、能力の高い生徒が努力を欠かさなかったため、初めて団体で出場することができました。
今日の大会で生徒も私も多くのことを学ばせて頂いています。この後の閉会式の時間までいろいろなものを吸収し、帯広に帰りたいと思っております。

コンピュータ部の取り組みについて

岐阜県立大垣商業高等学校  

豊吉 利之先生

本日、大垣商業高等学校野球部は甲子園地区予選の決勝戦を行っており、優勝すれば24年ぶりに甲子園大会に出場することになります。そしてこの全国高等学校IT・簿記選手権大会に於いて、簿記部とコンピュータ部が全国大会を目指して熱い戦いをしています。

昨年は大垣商業高等学校簿記部の山田先生が講演をしました。山田先生は私より若い先生ですが、いつも勇気をもらっています。簿記部は、その実力が全国トップレベルというだけではなく、学校行事にも積極的に参加している意識の高い部でもあります。8月にオープンキャンパスがあり多くの中学生と保護者が参加する予定ですが、そのオープンキャンパスのお手伝いも簿記部が行います。そんな簿記部の山田先生の次に講演をするのは恐縮ですが、大垣商業高校赴任3年、これまでのコンピュータ部の取り組みについてお話しします。

Ⅰ コンピュータ部の顧問になって現在まで、2年4ヶ月の取り組み

「情報技術を通して社会貢献できる人材を育てる」をポリシーに取り組んでいます。
赴任した当時のコンピュータ部は自由な雰囲気で、部員が集合して活動するのではなく、個々がそれぞれの場所でそれぞれの活動をしているという状況でした。私が抱いていた「学んで得た知識を通して社会貢献する」というポリシーとは、程遠いように感じました。部活動をきちんとやろうという問いかけに生徒からは、「緩い部だから入部した」、「授業のない土曜日に部活動のためだけに登校するのは嫌」など、部活動に対して消極的な発言もありました。
部活動の時間にきちんと部活動をするために、生徒の意識改革をすることから始めました。

生徒の意識改革の為の3つの取り組み

  • ①専門学校(東京IT会計名古屋校)の先生に講義を依頼
  • ②県立岐阜商業高校EDP部の生徒と一緒に勉強し、東海大会に出場する
  • ③高度情報処理試験に現役の高校生で合格した女性に講演を依頼

取り組み後の効果

  • ①情報処理の授業の中で、学んだ知識が将来どのように生かされていくのか、どう活用すればよいのか教えてもらい、生徒のやる気を巧く引き出してもらえました。
  • ②偏差値の高い学校に劣等感を持っている生徒もいましたが、一緒に勉強することで良い刺激を得たようです。
  • ③資格を取得し、現在30歳半ばで活躍されている方の話は、生徒も身近に感じ共感を得たようです。

取り組み後の結果

部活動がある日は全員揃って活動、欠席者がいても少数と、他の部活動と同じ状態で活動を行えるようになりました。今年度は、2年生5人が基本情報処理試験に合格し、このIT・簿記選手権大会に出場するまでになりました。 今年度は部員が13名いるため、出場枠が10名のIT・簿記選手権大会に部員全員が出場することができません。そこで校内選考を行いました。結果発表の時、10番目の点数の生徒は泣いて喜び、選考に漏れた3名は本当に悔しがっていました。今日の競技でどこまでできるのかわかりませんが、彼らの頑張りに期待しています。

Ⅱ コンピュータ部の活動について

コンピュータ部は次の3つの目標があります。

  • ①資格の取得
  • ②大会の出場
  • ③ソフトウェアーの開発

情報に関する知識があっても、実際に役立てることが出来なければ意味がありません。学んだ知識を活用するために、部活動では知識習得の証として資格取得や大会への出場をしていますが、その知識・技術で社会貢献するためにソフトウェアーの開発も行っています。その取り組みを2つ紹介します。

①作品制作

プログラミングコンテストに出場するため、4月の国家試験が終わってから取り組みます。部員13人が3~4人のメンバーを組んで取り組んでいます。

②情報科の専門科目「課題研究 6単位」に相当する授業

役に立つ作品を作りたいと考え、アイフォンアプリの作成をしています。今回は岐阜県立大垣特別支援学校に協力して頂き、児童向けのアイパッドアプリの制作に取り組みました。制作するにあたって、大垣特別支援学校の職員の方から講演をして頂きました。その中で、「知的障害を持っている子どもたちは支援が必要です。支援とは、その子が自分でできるように助けること、自分でできることを増やすことです。また少しでも先を見通せるようにすることです。」と、伺いました。講演の後、大垣特別支援学校へ訪問、アプリ作成を目指して何度も通いました。画像はシンプルに、フォントは教科書体に統一、選択肢はなるべく少なくするとよいなど、制作時の改善点を頂きアプリを完成させることが出来ました。
大垣特別支援学校でアプリの贈呈式を行い、子どもたちに体験してもらいました。子どもたちに喜んでもらい、生徒たちも大変喜びました。子どもたちが、生徒たちが来ることをとても楽しみにしていたという話を聞いて、私もとても嬉しかったです。

情報技術を通して社会貢献できることを、生徒も実感しています。アプリ作成に関しては、岐阜県は、アプリ開発サマーキャンプを毎年行っています。
御清聴くださり、ありがとうございました。

コンピュータ部
活動目標
将来の社会人として、挨拶やビジネスマナーを身に付けるとともにICTの知識や技術を身に付け社会に貢献する人材となるために、以下の活動を行う。

  • ①高度な資格取得→経済産業省情報処理技術者試験などへの挑戦
  • ②パソコンやスマートフォンで動くソフトウェアの開発→プログラミングコンテストでの上位入賞
  • ③競技大会への出場→県、東海、全国大会での上位入賞

(大垣商業高等学校ホームページから引用)

共通教科「情報」と情報処理同好会の取り組みについて

福岡県立春日高等学校  

安武 俊展先生

本校は昭和53年に創立され昨年度40周年を迎えた比較的新しい学校です。現在は新設校から伝統校への変革期を迎えており新しい大学入試への対応やICT教育の充実、主体的・対話的で深い学びの導入などを行っております。設置学科は、全日制課程普通科のみとなっておりほとんどの生徒が国公立大学をはじめとする4年制大学へ進学しております。生徒は約1270名在籍しています。

情報の学習については1年生と2年生で週に1時間ずつの授業となっており、1年生ではコンピュータの仕組みや情報モラル、知的財産権などを学習し2年生ではアルゴリズムやプログラムなどについて学習しています。また2年生の最後には総合演習として身の回りの問題解決を考えプレゼンテーションすることとビジュアルプログラミングのscratchを活用してアルゴリズムを考える授業を行っております。

現状の懸念としてはキーボードに慣れていない生徒が多く、タイピングの練習が授業の中であまりとれていないことです。2020年度から始まる大学入学共通テストに将来的に情報の科目が実施された場合、CBTでの試験になった場合タイピングに慣れておく必要があると感じています。

大会への参加は情報処理同好会が参加しています。平成26年度に活動をはじめ翌年から会員数8名で発足しました。週1回特別講義を行い、自学自習ができるようパソコン室のサーバーに教材を保存し、生徒自ら興味のある分野から進めるようにしています。強制的に進めるというよりはモチベーションを高められるように進めております。平成27年度から大会に参加しており、日頃から専門教科を勉強している専門高校に比べると厳しいのではないかという不安もありましたが生徒自身がもう少し勉強すれば上位を狙うことができるのではないかという手応えがあり、それからは受験をするしないに関わらずITパスポート試験の勉強を中心に全商情報処理検定の過去問題も使用しながら1日1問の過去問題を解くことを進めております。昨年の大会では選手の中にITパスポート合格者2名、基本情報合格者1名いたこともあり、団体4位、個人9位の結果をえられました。このような機会を通じてより効果的な指導方法などお教えいただければありがたいと考えております。

郡部の商業教育の灯火を消さないために

熊本県立球磨中央・球磨商業高等学校  

森 広明先生

本校は、1・2年生は球磨中央高校として、3年生は球磨商業高校として在籍しております。来年度、球磨商業高校は閉校し、商業系2クラス、情報系1クラス、普通系1クラスの球磨中央高校のみとなります。

現任校が3校目で、赴任して8年目となります。高校時代は熊本商業高校で、簿記部部長を務めさせていただきました。高校時代に取り組んだ日商簿記1級の指導を目指して教師になりましたが、熊本商業高校(中心校)では考えられないような郡部の高校がおかれている厳しい状況や、基礎学力が身についていない生徒の現状を見て、厳しい学校での指導が私に与えられた教師としての使命と感じ、長く郡部の高校で指導にあたっております。今年度で熊本県の高校再編は終了しますが、依然として本校をはじめ、熊本県の郡部の高校は激しい定員割れで苦しんでいる状況です。

部活動での指導については、人間性の指導と意識改革を中心に取り組んでいます。物事に取り組む基本的な姿勢を構築し、生徒自身の成長を促すことで、将来の可能性を広げることができるからです。また、指導する時は必ず、「目の前の生徒のために何ができるのか」「迷ったときはどちらが生徒のためになるのか」という熊本商業高校の簿記部を作った父の教えを意識しています。基礎学力の厳しい郡部の高校でも部員全員が理解できるよう基礎を丁寧に指導し、モチベーションを高める話を繰り返し行い、他校との練習会や学期ごとの合宿等の地道な取組みを行えば、各都道府県の中心校と肩を並べることができるという事を、今までの生徒達への指導を通じて確信しております(昨年度IT簿記選手権九州大会個人・団体準優勝、簿記コンクール熊本県大会個人・団体3連覇中など)。

また、熊本県全体を考えましても、熊本県の上位層の生徒については、熊本商業高校の木庭先生(5学年上の簿記部の先輩)が素晴らしい指導をされています。微力ながら私が下位の生徒の底上げをする事で、熊本県全体の指導がより効果的になるのではないかと考えています。今後も、大きな成果や実績を残すことは難しいと思いますが、とにかく簿記を学んでよかったと思う生徒を一人でも育てることができるように、目の前にいる生徒を大切にしてこれからも努力してまいります。今回の発表をさせていただきました事を機会に、様々な面でアドバイスいただければ幸いです。

熊本商業高等学校の簿記部の取り組みについて

熊本県立熊本商業高等学校  

木庭 寛幸先生

私自身、熊本商業高校簿記部の一員としてこの大会に参加しておりました。今大会では27年ぶりに日商1級部門で団体、個人ともに優勝することができました。これも熊商簿記部を創部してくださり、当時の私を見捨てずにご指導下さった森和則先生をはじめとする熊本県の先生方、情熱溢れる九州の先生方、全国の先生方のおかげです。本当にありがとうございます。

簿記部の練習時間は平日16:00~19:00、土・日8:30~17:00です。毎年70名超える部員が入部しており、学校ではサッカー部に次ぐ大所帯ですが、部員募集には苦労しております。7月に中学生体験入学の中で簿記会計の講座を行っているのですが、簿記の魅力や楽しさが中学生に伝わり、熊商への進学を希望してくれる生徒もいます。3月の合格者召集日には部員総出でチラシを配り、4月の入学式では簿記部の魅力を会計科の保護者に直接お伝えする場を設けております。その後も授業の中で「簿記会計をなぜ学ぶのか」などを中心に時間をかけて指導することによって、最終的に会計科の生徒の約半数(20名前後)が入部している状況です。

簿記会計の力を高めることはもちろん重要ですが、それ以上に人間力を高めることが大切ではないかと感じております。目標として、「熊本県や日本そして世界を支える『人財』の育成」を目指して活動しておりまして、そのために一番力を注いでいるのが「人間教育」です。「簿記会計を通じた人間教育」が最大の課題だと感じております。礼節指導や有志によるトイレ清掃、部員の心をひとつにするための活力朝礼、毎年恒例の卒業生による自主制作本、各種講演会への参加などを通じて、生徒と共に学んでおります。

資格取得では、1年生の11月までは私以外の顧問2名の指導により、日商2・3級に取り組みます。11月の検定終了後からは、合否に関係なく1~3年生全員を一つの教室に集めて、日商1級の内容に取り組みます。2年生の6月に1級を受験し、受験資格がある生徒は3年次に税理士試験の簿記論・財務諸表論を目指します。本日参加しているメンバーのうち4名が、昨日の税理士試験を受験しました。

卒業後も継続して学ぶ生徒が多いのですが、税理士試験では毎年合格者が出ていますが、公認会計士試験に挑戦する生徒の育成が今後の課題です。私自身、日商1級と全経上級を生徒と共に毎回受験しておりますが、今年6月の日商1級では100点で合格した生徒もおり、受験するたびにもっともっと学ばなければと痛感しております。

その他、他校との合同合宿(日商1級学習会)を九州地区の先生方と実施し、教師、生徒共に情報共有や親睦を深める素晴らしい機会になっています。
今後も熊本県や日本、世界を支える「人財」育成を目指し、圧倒的な情熱と学ぶ姿勢を失わない指導者であり続けたいと思います。

第38回大会 平成30年7月25日実施

北海道帯広南商業高等学校 堀内 大輔先生、熊本県立熊本商業高等学校 木庭 寛幸先生の講演は
平成30年8月8日実施